東芝・過労うつ病労災・解雇裁判
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行政訴訟(労災不支給取消し訴訟)

平成19年(行ウ)第456号 療養保障給付不支給処分取消等請求事件

訴状

  
                    訴        状

                                     平成19年7月19日

東京地方裁判所民事部 御中

                       原告訴訟代理人弁護士  川 人   博

                       同                山 下 敏 雅

                       同                原   宏 之


当事者  別紙当事者目録記載のとおり


療養補償給付等不支給処分取消請求事件
     訴訟物の価額  160万0000円
     貼用印紙額      1万3000円







請求の趣旨

1 熊谷労働基準監督署長が原告に対して平成18年1月23日付けでなした労働者災害補償保険法による療養補償給付たる療養の費用及び休業補償給付等を支給しない旨の処分はこれを取り消す
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。

請求の原因

第1 原告
 原告は,訴外株式会社東芝(以下「東芝」という。)の深谷工場において勤務していたところ,平成12年11月頃より東芝内で発足した「M2ライン」立ち上げプロジェクトの業務に従事し,長時間残業・休日出勤,多発したトラブルの対応,各種会議の開催,新たな業務を次々と課されたこと等,業務上の過度の精神的負荷を負ったことにより,精神障害に罹患し,平成13年9月4日より療養生活に入るとともに,休業を余儀なくされた。

第2 原処分と審査請求・再審査請求
 1 原処分
 原告は,精神障害発病が東芝深谷工場における業務上の過労・ストレスに起因するものとして,平成16年9月8日,熊谷労働基準監督署長に対し,労働者災害補償保険法に基づき,療養補償給付たる療養の費用及び休業補償給付等の請求を行った。
 これに対し,熊谷労働基準監督署長は,平成18年1月23日,療養補償給付たる療養の費用及び休業補償給付等を支給しない旨の処分(以下「原処分」という)をなした。

 2 審査請求
 原処分に対し,原告は,平成18年1月25日,埼玉労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが,同審査官は平成18年12月22日,審査請求を棄却する旨の決定を下した。

 3 再審査請求
 原告はさらに平成19年2月6日,労働保険審査会に対し再審査請求を行ったが,3ヶ月を経過したにもかかわらず,裁決がない。
 本訴訟提起時においても,同審査会から口頭審理の通知はなく,一件記録も開示されていない。審査会係属事案の中には再審査申立後3年以上経過しているのに裁決が出されていない事案もあり,本件労災の審査会の裁決も不当に遅延させられる可能性が高い。

 4 原処分取消の必要性
 原告の精神障害発病は労災であり,原処分には,労働基準法等の法令の解釈適用を誤った違法があり,速やかに取り消されるべきであるので,本訴に及んだ。

第3 原告の精神障害発症の業務起因性
 1 業務内容
 原告は,平成2年4月1日東芝に入社し,生産技術研究所に配属され,その後,平成10年1月に深谷工場へ転勤となった。原告は,入社以来,技術者として主に液晶生産技術プロセス開発等に従事していた。
 原告は,平成12年11月頃より,東芝深谷工場において,パソコン等の製品に用いる液晶の生産「M2ライン」立ち上げプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)の業務に従事した。本件プロジェクトは,ポリシリコン液晶の製造を効率よく行うために基盤サイズがこれまでで最大である点,及び,初めから量産ラインとして立ち上げるために立ち上げ期間が非常に短い「垂直立ち上げ」である点に特徴を有していた。
 原告は本件プロジェクト中,「アレイ工程」の中の「ドライエッチング工程」のリーダーを務めることとなった。なお,ドライエッチング工程の技術担当者は,原告を含め3人のみであった。

 2 長時間労働
 平成12年12月初め頃より,原告はドライエッチング工程の立ち上げ業務のため,長時間残業及び休日出勤を強いられるようになった。
 平成12年12月頃から同13年3月頃にかけて,原告は,毎朝午前8時までに出勤することが多く,退勤時刻は深夜午前0時ないし1時頃まで及ぶことが常態化した。
 原告は,土曜・日曜も出勤日としてスケジュールに組み込まれたり,また土曜・日曜が出勤日とされていない場合でも,業務に遅れが生じている場合には,必然的に休日出勤を余儀なくされた。
 原告が本件プロジェクト業務に従事し,精神障害を発症するまでの時間外労働の実態は,1か月に100時間を超えることが続いた。

 3 トラブルの多発
 平成13年1月以降,原告のドライエッチング工程でトラブルが多発し,原告はその対応に追われた。東芝ではドライエッチング工程が「M2ライン・アレイ工程」での最重要改善工程であるとされ,3月頃から,対策会議がほぼ毎週開催された。

 4 新たな業務の担当の指示
 原告は,平成13年5月頃,東芝から本件プロジェクト業務以外にも下記の業務を担当するように指示された。
(1)「反射製品」開発業務
 原告は「反射製品」開発業務に携わった経験がなかったが,この業務のリーダー兼スルーも並行して務めるようになった。
(2)反射製品の「承認会議」
 新製品の出荷スケジュールに間に合わせるためには,平成13年5月31日の承認会議で必ず承認を得られるようにしなければならず,緊張度の高い会議であった。しかし,原告は反射製品のプロセス開発の詳細内容を知らされておらず,かつ,それまで承認会議を開催した経験がなかったことから,原告にとって過大な精神的負荷となった。
(3)「パッド腐食」対策業務
 「パッド腐食」対策業務は,液晶分野一般に関わる広い分野の業務であり,東芝は原告に対し同業務をも行うように指示した。

 5 原告の12日間連続欠勤
 原告は,上記のような過重業務から,激しい頭痛に見舞われ,平成13年5月23日から12日間連続して出勤することができなかった。その間,原告は,S医院(内科)を受診し,点滴等の治療を受けた。

 6 平成13年6月以降の業務
 原告の身体・精神状況の悪化にもかかわらず,「パッド腐食」への対応,「半透過製品」業務,反射製品担当業務,「M2ライン不良解析チーム」等,東芝は次々原告に新たな業務を課し,又は,課そうとした。

 7 精神障害の発症
 上記のような過重な業務のため,原告は心身共に疲弊し,体調が悪化した。
 平成13年4月11日,原告はH神経科クリニックにおいて抑うつ状態と診断された。
 同年6月より,原告の頭痛・不眠・疲労感等の症状が重くなり,業務遂行が困難となったため,H神経科クリニックに本格的に通院を始めるようになった。
 同年7月中旬頃,原告は頭痛のために眠ることができず,連日頭痛薬を服用するようになった。
 同年8月7日頃,原告は会社にいることが嫌でたまらなくなり,わけもわからず涙が止まらない状態となった。
 その後も東芝における過重業務は続き,原告は,平成13年9月より,療養生活に入り,休業を余儀なくされた。

第4 原処分理由の誤り
 1 審査請求決定書によれば,原処分は,原告においては判断指針で対象とされる精神障害が発病したと判断されるが,精神障害発病に係る業務による心理的負荷は総合評価が「強」に至らないと考えられる旨述べ,本件業務と精神障害発病との因果関係(業務起因性)を否定した。

 2 しかし,上述したとおり,原告の業務と精神障害発病との間には相当因果関係があることは明らかである。
 原処分は,原告の業務の過重性の評価,及び原告の精神障害発病と業務との相当因果関係の判断を誤ったものである。

 3 原告が会社から上記のような過重業務を強いられた結果,原告は精神障害に罹患し,激しい頭痛や不眠等に悩まされ,長期の療養生活及び休業を余儀なくされたという被害の甚大さに鑑みれば,因果関係(業務起因性)を否定した原処分はあまりに理不尽である。

第5 結語
 以上より,原告は原処分の取消を求め本訴に及んだ。

第6 書証の開示について
 迅速な訴訟進行のため,被告に対し,第1回期日までに一件記録全てを乙号証として提出するか開示するよう求める。

第7 関連事件
 原告は,株式会社東芝に対し,解雇無効確認及び損害賠償等を求めて訴訟を提起し,現在御庁に係属中である(平成16年(ワ)第24332号)。


証 拠 方 法

甲1号証 決定書(謄本)
甲2号証 労働保険再審査請求書の受付について(通知)





添 付 書 類

1 甲各号証の写し   正副各1通
2 委任状          1通
3 証拠説明書     正副各1通
4 上申書       正副各1通





当事者目録


      原          告        重  光  由  美

〒113-0033 東京都文京区本郷2丁目27番17号 ICNビル4階
      川人法律事務所(送達場所)
      TEL 03-3813-6901 
      上記原告訴訟代理人弁護士   川  人     博
同所    同                   山  下  敏  雅
同所    同                   原     宏  之


〒100-0013 東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
      被          告         国
      上記代表者法務大臣         長  勢  甚  遠
      当該処分をした行政庁        熊谷労働基準監督署長





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