東芝・過労うつ病労災・解雇裁判
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裁判・控訴審

平成20年(ネ)第2954号 解雇無効確認等請求事件

意見陳述書



                    意見陳述書

 東芝を解雇され、裁判を提訴してから4年近くの月日が流れました。うつ病発症し休職してからは7年近くの長い年月がたったことになります。

 先日の4月22日の東京地裁の判決では、私のうつ病の発症原因が業務である事を認める判決を出していただきました。東芝が徹底否定している中、私の主張をほとんど全面的に認め、業務が過重であったと認定し、公正に判決していただいた裁判官にはたいへん感謝しています。

 しかし、判決での、私の受けた苦痛に対する対価・慰謝料の低さに驚きました。弁護士から「日本では慰謝料が低い傾向にある」と言われましたが、それにしても低い。7年間寝たきりで、治る目処も立たず、将来の展望も描けない、人生を壊されたといっていいほどの苦痛を会社から受けながら、その対価が低いことに、私は納得がいかず、東芝が即日控訴したことを受け、控訴することに決めました。

 休職するまでの間、私は地獄にいるようでした。M2ラインの無茶なスケジュールを死守することを強いられ、トラブル対策が少しでも遅れると、上司たちからはきつく叱られました。プレッシャーの強い環境下で、睡眠時間を削りながらの長時間過密労働が続き、私は、体力・精神力とも疲れ果て、精神科に通い始めました。そして突然、新製品の開発責任者への業務変更になり、あまりの負荷の高さに倒れてしまいました。しかし、課長に体調の不調を訴えても仕事をやらされました。課長は「うつじゃないの」と心配そうに言った翌週、私が体調不調で休んでいる時に、自宅に電話をかけてきて、会議に出席して欲しいと言ってきたのです。強い恐怖と絶望感が体を走りました。会社にいることが嫌でたまらない精神状態になり、私は会社を休職することになりました。休職してから体調はすごい勢いで良くなっていきましたが、それでも、ただ横になっているだけでもつらい闘病生活が何か月も続きました。今も寝たきりの生活は続いています。

 そして、慰謝料の低さに加え、裁判で驚いた事がありました。それは裁判での東芝の対応でした。裁判が始まってからも、東芝は私に嫌がらせを始めました。裁判では私の主張は徹底的に否定し、タイムカードは当時私が作ったものとは違うニセモノを提出し、重要な業務資料の提出は拒否し、私が業務資料を提出すると、「社外秘の資料を持ち出すとは就業規則違反、懲戒解雇処分にあたる」と威嚇をしました。さらに、5年前の就業規則が見つからないと、提出に5ヶ月もかけました。就業規則が見つからないなどとても考えられないことで、無職の病人相手に裁判の引き伸ばしをしたとしか思えません。裁判のたびに私の体調は悪化し、薬の量も増えていきました。会社が資料を隠し、資料が見つからないと引き伸ばしを図れば、弱い労働者はなすすべもありません。

 東芝は、「人と地球の明日のために」をスローガンにかかげ、さらに「社員の人権を尊重します」とCSRにも載せている世界的規模の会社です。そんな大企業が、裁判という公の場で、社員に嫌がらせをし、社外秘を振りかざし、虚偽の主張をする事がまかり通るのであれば、日本では労働者の人権など無いと裁判所が言っている事に等しいと思います。

 判決後、東芝は即日控訴をしました。自殺者が2名出た職場で私が病気になったにもかかわらず、職場に問題が無かったと本気で思っているのでしょうか。控訴は病人相手の引き伸ばしではないのでしょうか。東芝は、敗訴してなお控訴する事を、世界的な企業として恥ずかしいとは思わないのでしょうか。東芝には、強い反省を望むと共に、事実を隠蔽するのではなく、反省し、労働環境改善やメンタルヘルス改善に努めて欲しいと思います。
 私は技術者という仕事が好きでした。戻れるものなら、また開発の最前線で働きたい。しかし、今の私は、外出もままならず、旅行に行くことさえ出来ません。健康になりたい、それが今の私が精一杯望むことです。寝たきりで過ぎ去った7年間、技術者としての将来への展望や普通の生活など、私はたくさんのものを失いました。会社が過重な労働をさせなければ、私が病気になることも無かったし、私が最初に体調の悪化を訴えたときに適切に対応していれば、病気が長引くことも、いくらでも防げたはずです。 

 私の味わった苦痛や失ったものは、お金に代えられるものではありませんが、過重な労働によって精神疾患になることが非常につらく苦しいことを分かってほしいし、同じ様な過重労働で苦しむ人がいなくなってほしいと思っています。そして、うつ病に対する偏見が少しでもなくなり、社会のメンタルヘルスが向上すること、そして、会社が社員の人権をきちんと尊重する社会になってほしいと思っています

 裁判所にはぜひとも私が受けた苦痛に対する対価を公平に判定していただきたいと思っています。

 東京高等裁判所 第11民事部 御中
 2008年8月6日
                           原 告  重光由美



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