東芝・過労うつ病労災・解雇裁判
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裁判・高裁差し戻し審

平成26年(ネ)第2150号 

差し戻し審

最終意見陳述書


                  最終意見陳述書

 2014年3月の最高裁全面勝訴判決後、2014年6月に始まった差し戻し審も、丸2年が経過しました。裁判が始まってからは、12年という大変長い期間が経ちました。高裁の裁判官には、和解にご尽力いただき、14回も和解協議を重ねましたが、結局、和解決裂という結果になってしまい、本日、結審を迎え、最終意見陳述書を読むことが、非常に残念です。
 和解協議の話し合いでの争点はいくつかあったのですが、まず、私の復帰場所です。私は、技術者としての復帰は無理だから、できれば、メンタルヘルスに係る仕事がしたい、と希望したのですが、東芝は、勤務したことも無く土地勘も全くない研究所を指定してきました。技術者としての復帰は無理だ、と言っているにもかかわらずです。私にとって、トラウマの強い会社に復帰することは大変な困難を伴います。東芝ほどの大企業では、メンタル疾患を患った社員が復帰する場所として、もっと適切な場所や業務がいくらでもあるはずです。東芝には、復帰場所は、なぜその研究所なのかと度々質問をしましたが、その研究所が最適だ、の一点張りで、納得いく説明はありませんでした。東芝のこの対応は、私への嫌がらせとしか思えませんでした。
 次に、復帰に当たっての、私の賃金についての話し合いです。東芝からは、東芝が公表している、東芝社員の「年収の平均値」を下回る額を提示されました。その年収の根拠として、東芝は、昇給査定を、東芝社員の6割以上が該当する、一般的な「良好」と上位5%の「抜群」を組み合わせ、年齢分昇給させた結果の年収と回答してきました。その査定だと、平均賃金より上になるはずです。なのに、なぜか私の復帰後の年収は、東芝公表の「年収の平均値」を下回る額です。
さらに、東芝は、私が在職していた時の「昇給査定」は、下位20%にあたる「平凡」だったという資料を提出してきました。しかし、私は、上司から「同期では一番良い査定だ」と言われており、私の査定は、上位20%以上に当たる「優秀」以上がほとんどのはずです。裁判官が、私の査定が下位20%だった根拠の資料提出を東芝に求めたところ、組合員の昇給査定程度の資料なのに、コピーも出来ないほどの「極秘資料」だとか言う資料が提出されました。私が、保管していた賞与明細を提出し、査定は上位20%以上の「優秀」だったはずと主張したところ、会社からは、「昇給と賞与の査定は違う、賞与に関する資料は全く残っていないので確認が出来ない」と、これまた不自然極まりない回答がありました。明らかに、私の査定を捏造しています。私を査定の悪かった無能者扱いし、不誠実極まりない東芝の対応には怒りを感じ、和解協議の度に、ストレスは酷かったです。トラウマの強い会社に戻るのに、復帰場所さえ、希望が通らないのでは、私に東芝と和解をするメリットは全くありません。
しかし、裁判官には、尽力して頂き、私が、東芝からの条件「ブログに和解協議については、日程しか書かない」を受け入れることで、和解が進む事になりました。しかし、私がブログの書き込みを制限した後も、東芝は、私の要求に全く応じることなく、私の質問に、不自然極まりない回答をし続け、結局和解は決裂、判決に向かうことになりました。
社会では、自殺や精神疾患が社会問題となり、メンタルヘルスの重要性が声高に叫ばれています。この裁判は、社会のメンタルヘルスを向上させた裁判として、注目を浴び、そして、最高裁判所も、私の主張を全面的に認め、東芝に全ての責任があるとする判決を出してくれました。最高裁判所が、もっと社会のメンタルヘルス向上に努めるべきとする司法判断を社会に司法に示したのです。
それにもかかわらず、社会の風潮に逆行し、最高裁の決定を受け入れようとせず、被災者である私に対する誠意も反省もしない大企業東芝の対応は、司法で厳しく断罪されるべきです。
 また、近年、上司によるパワハラにより精神疾患を患った被災者の訴訟が急増しており、こちらも、国を挙げての取り組みが行われています。裁判を提訴した12年前は、パワハラという言葉があったかどうかでしたが、発症当初から、福田課長が私になした行為は、上司という優位な立場を利用して部下になした異常行動であり、決してあってはならない行為だと思っていました。
 高裁判決文37頁には「その後、第一審原告には「半透過製品」のデザインレビュー会議に提案責任者という重責を伴う任務が割り当てられたことなどにかんがみると、福田課長に「体調不調」を具体的には訴えていなかったと認められる」という記述があります。高裁裁判官も、さすがに体調不調を訴えた部下に、重責を担う業務はさせないだろうと思ったのでしょう。もちろん、私は体調の不調を訴えていましたが、私は、高裁裁判官も想像できない、常識では考えられない、上司に業務軽減を求め、了解されても、それでも重責のある仕事を押し付けられるといったパワハラを度々受けたのです。
私が上司福田課長から受けた発症当時の苦痛は耐えられないほど大きなもので、今でも、余りにもつらすぎた当時のことを思い返して、涙が止まらない時があります。そして発症から15年以上経った今もなお、私は不安感、睡眠障害、疲労感といった症状に苦しめられ、外出もままならず、一日のほとんどを寝てすごしています。それどころか、裁判中の会社の嫌がらせといった対応に「解離」や「妄想」といった、通常の健康な人では説明が出来ない深刻な症状も体験し、将来の生活に不安を抱いています。
さらに、裁判では勝訴してなお、周囲からの精神疾患への根強い偏見を感じており、その状態で生きていくことは非常に辛いです。15年以上、治る目処も立たず、将来の展望も描けない、人生を壊されたと言っていいほどの苦痛を会社と福田課長から受けました。 上司というだけで、体調不調を訴えても仕事を押し付けるパワハラを繰り返し、部下の人生を壊す、そんな権利があるわけがありませんし、あってはなりません。
最高裁判所には、過重な労働や上司のパワハラ、会社が適切な対応を怠ったために私の鬱病が増悪したこと、そして、私には過失も素因もないことをきちんと認めていただきました。
差し戻し審となる、高等裁判所におかれては、最高裁判所の意向に従い、会社での過重労働や福田課長のパワハラ行為、会社の過失を断罪し、私が受けた苦痛や、失ったものを正当に判断していただきたいと思います。今回の判決では、損害賠償の額が争点となりますが、その額は、マスコミ報道され、社会に与える影響はとても大きいのです。どうか、社会のメンタルヘルスが向上し、上司のパワハラが無くなり、私のように、仕事が原因で精神疾患を発症し、症状や偏見に苦しむ人が、少しでもいなくなるような判決をお願いします。
 
 東京高等裁判所 第9民事部 御中
 2016年6月20日
                                原 告  重 光 由 美

 





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