東芝・過労うつ病労災・解雇裁判
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裁判・高裁差し戻し審

平成26年(ネ)第2150号 

意見陳述書


                    意見陳述書

 2011年2月23日に控訴審判決が出て3年3か月が経ちました。解雇されてからは10年、休職を開始してからは13年が経過しました。本日、差し戻し審の初弁論期日の場で、意見陳述ができることをうれしく思います。
控訴審の最終意見陳述では、次のように述べました。
控訴審の和解が決裂してから、東芝は、上司や同僚の陳述書や産業医の意見書を多数作成して提出し、私の精神疾患の発症の原因が、業務上ではないという主張をしつこく繰り返しました。しかし、国の労災認定はもはや覆ることはありませんし、それは東芝も十分承知しているはずです。東芝は、裁判が始まってから、ずっと、嫌がらせや引き伸ばしに徹してきましたが、和解決裂後もその態度は全く変わらず、私が症状悪化して裁判を辞めることを狙ったとしか思えない、本当にしつこい態度をとり続けました。これが、日本を代表するような、そしてメンタルヘルスをしていますと公表している会社の裁判での対応なのかと思うと、非常に残念です。東芝には、強い反省を望むとともに、会社のメンタルヘルスや体質の改善を、と、これで何回言ったかわかりませんが、東芝は、地裁で全面敗訴しても、国に労災認定されても、全く反省することなく、裁判をいつまでも続け、病気の私を苦しめ続けています。会社に対して厳しい判決が出ないと、会社は反省しないのだと思います。
 と、最終意見陳述では述べたのですが、残念ながら、東京高裁は、東芝の主張を大幅に認め、私にも過失があるとして、東芝の損害賠償額を地裁判決より2割減らすという、事実上の原告敗訴としか思えない判決を出しました。覆ることの無い労災認定さえ否定する東芝の主張は明らかにおかしいのに、東芝の主張が認められる、うつ病を患った私の主張より、大企業の明らかに矛盾した主張を取り入れる、高裁の裁判官は、精神疾患に対して偏見を持っていたとしか考えられません。精神疾患を患っている、この原告はきっと弱い人なんだろう、そういう偏見ありきで書かれた判決文としか思えない高裁判決には強い憤りを感じました。判決では、一回程度の精神科への通院を取り上げて、私のうつ病のなり易さや過失としましたが、自殺やうつ病が社会問題となり、「うつ病はこころのかぜ、気軽に精神科を受診しましょう」と、国を上げてキャンペーンをしている社会情勢を全く無視しており、裁判官のメンタルヘルスの知識の無さ、社会常識の無さを強く感じます。
 裁判に勝つには、精神疾患は、環境によって、誰でもなるということを裁判所に知らせる必要がある、精神疾患を患った私自身がそれを訴えなくては、そう思い、上告してからは、月に一回、最高裁の前で、自らマイクを持ち、「うつ病は誰もがなる、社会のメンタルヘルス向上のために、安易に原告の過失を取るべきではない」等々、訴えてきました。3年かかりましたが、最高裁には、公正に判断をしていただき、会社側に全面的に過失がある、とする判決を出して頂きました。
 高裁判決文37頁には「その後、第一審原告には「半透過製品」のデザインレビュー会議に提案責任者という重責を伴う任務が割り当てられたことなどにかんがみると、福田課長に「体調不調」を具体的には訴えていなかったと認められる」という記述があります。高裁裁判官も、さすがに体調不調を訴えた部下に、重責を担う業務はさせないだろうと思ったのでしょう。もちろん、私は体調の不調を訴えていましたし、普通、相当数の欠勤を繰り返し、業務の軽減を上司に求めていた部下に、重責を担う任務を割り当てないでしょう。しかし、私は、高裁裁判官も想像できない、常識では考えられない、上司に業務軽減を求め、了解されても、それでも重責のある仕事を押し付けられるといったパワハラを度々受けたのです。上司のパワハラのせいで、私の症状は、急激に悪化していきました。
最高裁判決では「上告人は、・・・相当数の欠勤を繰り返し、業務の軽減の申出をするなどしていたものであるから、被上告人としては、そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり、その状態の悪化を防ぐため上告人の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったというべきである。」と、しごく妥当なことを述べています。
 私が会社から受けた発症当時の苦痛は耐えられないほど大きなもので、今でも、余りにもつらすぎた当時のことを思い返して、涙が止まらない時があります。そして発症から13年以上経った今もなお、私は不安感、睡眠障害、疲労感といった症状に苦しめられ、外出もままならず、一日のほとんどを寝てすごしています。それどころか、裁判中の会社の嫌がらせといった対応に「解離」や「妄想」といった、通常の健康な人では説明が出来ない深刻な症状も体験し、将来の生活に不安を抱いています。このことは「裁判が長期にわたり、その対応に心理的な負担を負い」と、最高裁判決も裁判の長期化により私が精神的苦痛を受けたことを認めています。
 さらに、裁判では勝訴してなお、周囲からの精神疾患への根強い偏見を感じており、その状態で生きていくことは非常に辛いです。
 13年以上、治る目処も立たず、将来の展望も描けない、人生を壊されたと言っていいほどの苦痛を会社と上司から受けました。
 会社が過重な労働を課し、発症させたことはもちろん問題ですが、私が最初に体調が悪いと訴えたときに、会社が適切な対応を取っていれば、私の病気がこんなに長引くことも、症状や偏見に苦しむことも無かったはずです。上司というだけで、体調不調を訴えても仕事を押し付け、部下の人生を壊す、そんな権利が上司にあるのでしょうか。
最高裁判所には、会社が適切な対応を怠ったために私の鬱病が増悪したこと、そして、私には過失も素因もないことをきちんと認めていただきました。
 差し戻し審となる、高等裁判所におかれては、どうか、私が受けた苦痛や、失ったものを正当に判断していただきたいと思います。そして、メンタルヘルス対策を行っていますと社会にアピールしている大企業が、言葉だけではなく、本当にメンタルヘルス対策を実施し、社会のメンタルヘルスが向上し、上司のパワハラが無くなり、私のように、仕事が原因で精神疾患を発症し、症状や偏見に苦しむ人が、少しでもいなくなることを願っています。
 
 東京高等裁判所 第9民事部 御中
 2014年6月9日
                         原 告  重 光 由 美


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