東芝・過労うつ病労災・解雇裁判                            2005年8月31日

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      ●事件の概要(休職するまで)と裁判の意義

           (担当弁護士川人法律事務所のホームページより転載)

     
      ●発症・休職するまでの原告の状態

           意見陳述書をお読みください



             2011年2月23日撮影
              
     控訴審からの弁護団 左側より 山下弁護士、川人弁護士、原告、島田弁護士、小川弁護士
        

事件の概要と裁判の意義
〓 業務上の原因により精神疾患に罹患した被災者の解雇撤回・損害賠償請求訴訟 〓
原告 重光由美
原告代理人 川人博,山下敏雅,小川英郎,島田浩樹 
被告 株式会社東芝
訴訟提起 2004年11月17日
事案の概要 被災者は,被告株式会社東芝の社員であったが,2000年11月ころより、会社内で発足した「M2ライン」立ち上げプロジェクト業務に従事し,長時間残業・休日出勤や各種会議開催等の過重な業務により,業務上の過度のストレスを受け,そのために精神障害に罹患し,2001年9月4日より休業を余儀なくされた。同プロジェクトに従事した同僚が2名が2001年7月・12月にそれぞれ自殺している。
そして,被告会社は,被災者が業務上の疾病に罹患しているにもかかわらず,休職期間の満了を理由に,2004年9月9日付けで解雇する旨の通知を同年8月6日に行った。
 本件は,原告が被告会社に対し,解雇の無効確認,並びに治療費,賃金と傷病手当金等との差額分,将来にわたる賃金ないし賃金相当額損害金及び慰謝料等を請求した事案である。
  請求の内容の概要  被告会社が原告に対する安全配慮義務を怠った結果同人が精神障害を負うに至ったので,平成16年8月6日に原告に対してなした解雇が無効であることを確認し,被告会社は原告に対し損害賠償金等として金1860万0908円及び訴状到達日以降1ヶ月47万3831円の割合による金員を支払うことを求める。
請求の原因の概要 (1) 液晶生産立ち上げプロジェクト発足と原告の精神障害発症(2000年11月から2001年4月ころまで)
  2000年10月頃,被告会社においてポリシリコン液晶の生産立ち上げプロジェクトが始動し,被災者は同プロジェクト中,「アレイ工程」の中の「ドライエッチング工程」のリーダーを務めることとなった(A業務)。同工程の技術担当者は,被災者を含め3人のみだった。12月始めころより,被災者は同業務のため,長時間残業及び休日出勤を強いられるようになった。毎朝午前8時から開始される朝会に間に合うように出勤し,退勤時刻は深夜午前0時ないし1時ころまで及ぶようになった。土曜・日曜も出勤日として当然のようにスケジュールが組まれた。特に2001年2月頃,被災者の担当する工程でトラブルが多発し,その対応に追われた。被災者が精神障害を発症するまでの所定労働時間に対する時間外労働時間は,タイムカードに記載されているだけでも以下の通り。実態としては時間外労働が100時間を超ていた。
2000年11月 12月 2001年1月 2月 3月 4月
39時間50分 98時間75分 79時間75分 79時間75分 94時間50分 80時間00分
 上記のような過重な業務のため,被災者は心身共に疲弊し,体調が悪化した。2000年12月13日及び2001年4月11日,神経科において診察を受け,抑うつ状態と診断された。もっとも,多忙な業務のため,その後翌5月まで定期的に通院できなかった。
(2) 新たな業務の担当の要請等と被災者の症状の増悪(2001年5月)
 被災者担当する工程で依然として不具合が発生し,生産立ち上げスケジュールは全体として遅れる見通しとなった。また,5月上旬に技術担当者の1人が別の部署に異動となり,担当者が被災者を含めて2人のみになったため,業務量が増加した。
 被災者はこの頃,課長より,本件プロジェクト業務(A業務)以外の業務も担当するように指示された。
 被災者はやむなく(A業務)を継続して行いながら,これまで携わったことのない携帯電話向け反射製品開発業務(B業務)のリーダーにも並行して従事するようになった。B業務には、各種重要会議の開催の業務も含まれていたが、被災者はその会議の開催経験がなく、過大な精神的負荷となった。
 上記の多忙な業務の中,同月中旬ころ,課長は被災者に対しさらに「パッド腐食」の対策業務(C業務)をも行うように指示した。被災者はこのとき,B業務だけでもボリュームがあると述べて,同業務の担当を断った。
 5月23日は予め取得していた有給休暇日だったが,激しい頭痛に見舞われ,その後の24日,25日及びその翌週の28日から6月1日,療養のため欠勤し,結局5月31日に開催されたB業務の会議には出席できなかった。5月29日ころには内科を受診し,点滴等の治療を受けた。
(3) 2001年6月以降の業務と被災者の欠勤
 被災者の身体・精神状況にもかかわらず,被告会社は次々被災者に新たな業務を課し,あるいは課そうとした。
 12連休が明けて被災者が6月上旬に出勤したところ,一度は被災者が担当を断ったはずのC業務について担当者とされていることが判明した。(被災者は再度同業務の担当を断った)
 6月下旬ころ,原告は課長に対し体調不良を訴え,B業務の各種会議の開催は担当できない旨申し出たにもかかわらず,被災者が同業務を非常に厳しいスケジュールで行わざるを得なかった(通常約1ヶ月の期間を要するにもかかわらず,約1週間という困難な日程を強いられた)。被災者は課長に対し,体調不良のためB業務の内容を限定するよう求めたが,負担は変わらなかった。
 また,8月22日,被告会社内で緊急発足した「不良解析チーム」に、知らぬ間に被災者もメンバーとされていた(D業務)。
(4) 被災者の通院及び欠勤
 同年6月より,頭痛・不眠・疲労感等の症状が重くなり,業務遂行が困難となったため,被災者は精神科に本格的に通院を始めるようになった。7月中頃,頭痛のために眠ることができず,連日頭痛薬を服用するようになった。このころ課長は被災者に対し,「うつ状態ではないの?病院には行っているのか。その病院はちゃんとしたところなのか。週2回行っているのか」などと質問した。被災者はは「病院には定期的に通っている。仕事ができないので,反射製品の新リーダーを具体的に決めて欲しい」と答えた。
 7月25日ころ,被災者が療養のため欠勤していたところに,課長は被災者自宅に電話をかけ,会議への出席を求めた。
 8月7日ころ,被災者は会社にいることが嫌でたまらなくなり,わけもわからず涙が止まらない状態となった。
 被災者は盆休み明け以降も新業務を課せられ,健康状態が改善しなかった。そして,8月24日に神経科医より「しばらく会社を休みましょう。」とアドバイスされたことから,同年9月より療養生活に入った。
(5) 以上述べた過酷な勤務状況からみれば,被災者が過重な業務により精神障害を発症し増悪させたというべきであり,業務と被災者の精神障害発症との間に相当因果関係があることは明白である。なお,被災者には,他に精神障害発症の原因となる事情はない。
(6) 解雇無効
 被告会社は2004年8月6日,被災者に対し同年9月9日付けで休職期間満了により解雇する旨の通知を電話で行い,重ねて書面により同通知を行ったが,本件精神障害が業務に起因し,現在もなお療養中である以上,労働基準法19条1項により当該解雇は無効である。
(7) 労災申請
 被災者は,本件精神障害が業務に起因するものであることから,2004年9月8日,熊谷労働基準監督署に対し労災申請を行い,現在調査が進行中である。
本件訴訟の意義 本件は,働く者の命と健康を守るための裁判として大変重要な意義を有している。
 本件原告は,長時間労働及び次々に課される新業務によるストレスなどの結果,精神障害に罹患した。このように過重な業務により心身を害し,療養しなければならない労働者が増えている。しかしながら,安全配慮義務を怠っている会社自身が,かような障害を私病扱いとし,療養のための休職期間の満了などを名目として当該労働者を不当に解雇する動きが広がっている。多くの労働者が泣き寝入りせざるをえない状況にある中で,本件原告は会社の責任を明確にするためにたたかうことを決意し,本件訴訟を提起した。
 本件訴訟は,労働者のいのちと健康が破壊されている状況がある中で,企業の責任を明確にし,健康的な職場をつくる上で大変重要な意義を有している。

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